個に応じた食形態 国立養護学校の給食レポート



 重度・重複障害児の教育を行うとともに、独立行政法人国立特殊教育総合研究所との相互協力のもと、特殊教育に関する実際的研究に協力する目的をもって設置された国立久里浜養護学校。今年で設立29年目を迎えるわが国唯一の国立養護学校。
 県立の養護学校とは異なり、幼稚部、小学部あわせて27名の幼児・児童が在籍。29名の教諭により、ほぼマンツーマンに近い状態で徹底した個別指導が図られており、また研究員が直接子どもの教育にも関わる場合もある。
 徹底した個別指導は学校給食においても同様であり、少人数校ならではの、きめ細かい対応がとられている。食事形態や使用する食器、給食時間も一人ひとり子どもによって異なる。
 11時45分。玄関口の大きなカラクリ時計から音楽が流れ出すと、その音楽に合わせて比較的障害の軽いクラスの子どもたちは教室から顔を出し、給食を運ぶため配膳室に集まってくる。
 給食は各クラス単位で行われ、ほとんどのクラスでは教師が隣に座って声をかけながらマンツーマンで食事が行われる。特に重度の肢体不自由児に対しては、声をかけながら、食材に触れさせながら、舌の上において味覚を味わいながら一口ずつ食べ物を口へ運ぶ。食事時間は20分で終わる子もいれば1時間半かかる子もいるので、給食開始時間、終了時間はクラスごとまちまちだ。
012個に応じた食事形態
 個人食形態一覧表には、それぞれの子どもたちの調理形態について記されており、必ずしも1種類の形態ではなく、ミジン食2分の1、常食2分の1といったようにその子の成長過程に合わせ、少し噛む力がでてきたら常食の割合を増やしたり、ごはんの量を増やしてみたりといった対応がとられている。
 主食はごはん、パン、麺の3種類だが、ごはんでも常飯、軟飯、ミキサーA(粥の上澄み状)、B(マヨネーズ状のとろみ)と4種類に分けられている。副食は常食、荒ミジン、ミジン、ミキサーA、Bと5種類の形態。

献立の配慮

 同校では学校栄養士が献立をたてるが、調理は隣接の調理場に委託している。校内にある配膳室で、学校栄養職員と調理補助員によって、2次調理が行われ、27人分それぞれに応じた食形態に盛り付けられ、一人分ずつトレイに乗せて運ばれる。
 献立作成の際、舌で押しつぶせる食材を必ず1品入れる、咀嚼力を高めるために野菜を入れる、レンコン、ゴボウ、筍などの硬い食材はおろすか、できるだけ小さい形にして使う、味覚学習のために甘味、酸味、辛い等の組み合わせを考えるなどの配慮が図られている。また季節のものを取り入れたり、できるだけ多くの食材を取り入れるようにしていると学校栄養士の高橋陽子先生。
 さらに家庭でも再調理が可能なように献立を工夫し調理方法を給食だよりに掲載したり、試食会をしたりと家庭への情報発信も積極的に行っている。「障害児は食へのこだわりが強いため、食べさせることが一番の苦労と言う親がほとんどです」(高橋先生)。
 給食時間中、すべての教室を見て回る高橋先生だが、子ども全員の状態を把握することは難しい。そこで一人ひとりの子どもの食事の様子は、担任教師によって毎日記録・報告される。食事残量もすべて記録。また味付けや調理方法について子どもたちの意見や担任教師が気付いた点も随時報告され、それをもとに更なる改善が図られている。

大切な教育の場

 「養護学校ではトイレ指導や着替え等、日常の指導と同じく、食事そのものが生きていくことにつながる大切な教育の場となります」と兵馬孝周教頭は話す。
 障害児教育の場合、著しい成長というのは短い期間ではなかなか顕著には表れないことが多い。しかし子どもは確実に成長している。食の場合も、はじめはうまく咀嚼できなかった子が1年間あるいはそれ以上の期間を通じてミキサー食からミジン食を食べられるようになったり、自分でスプーンを持つ事が難しかった子が一口だけでも自分の力でスプーンをもって口に運ぶことができ、自分で食事をすることの楽しさを覚える。ゆっくりではあるが確実に成長を遂げる姿が見られる大切な教育の場となっているとのこと。





(2002年2月9日号より)