児童虐待と養護教諭の役割


 児童虐待に関するニュースが頻繁に報道されている中、実際に虐待の兆候を察知したり、疑わしいと感じた経験を持つ小学校の養護教諭は、3割弱の27・3%いることがわかった(グラフ1参照)。ベネッセ教育研究所(島内行夫所長)が平成3年以来10年ぶりに全国の養護教諭を対象に行ったアンケート調査「心のケアワーカーとしての養護教諭」の中の「保健室の新しい役割」という項目。昨年5〜6月に全国の小学校から2400校を無作為に抽出。アンケート形式で聞いたもの。回答数581、回収率は24%だった。

約3割が「虐待疑がった」
発見には観察力が重要に


 まず養護教諭がここ数年間で虐待について相談を受けた件数は、「子どもから直接」は0・2人、「他の親などから」は0・1人と少ないものの「担任から」相談された経験を持つ者は平均0・6人とやや多くなっており、中には5人もの担任や子どもから、虐待に関する相談を受けた養護教諭もいる。
 一方で自分が児童と接していて虐待に気づいた経験を持つのは、27・3%(527人中144人)という数字。これを養護教諭の年代別にみていくと、20代が21・6%、30代23・2%、40代31・1%、50代37・9%(グラフ2参照)でベテランほど気づく割合が高くなっている。また校外の研究会に所属している者と所属していない者では、虐待に気づく割合は前者が32・7%、後者が22・0%と明らかに差が出ており、調査では「研究会に所属している養護教諭ほど、深い知識を持っている専門家でもあり、被虐待児に気づきやすいのでは」としている。
 こうした傾向は「1日で会話した先生の人数」とも関連している(挨拶や介護の討論は除く)。0〜6人では被虐待児に気づいたのは25・1%だったが、7〜9人では25・8%、10人以上では29・1%と相関関係がみてとれる。
 調査では虐待に気づいたきっかけについて自由記述で聞いているが、次のような内容だった(数字は養護教諭の年代)。
 ◆身体の傷から=▽30代…体にあざが数カ所あったり、頭や顔に大きな傷(あるいは出血している)を見つけた▽40代…体重測定時に体に出血が多く、円形脱毛症もみられた▽40代…手の甲の火傷のひどさ。10円玉大の大きさの溝ができていた(実の母親が2度目の父親に、タバコの火を手につけるよう指示し、その父親が実行)▽50代…殴られて鼻血。目のまわりの打撲。タバコでの火傷。本人の話では義父からの性虐待
 ◆身体の発育の悪さから▽40代…貧血傾向が強く体格・成長も悪い。体重の増加がみられない。朝から眠たがる
 ◆世話をされていない様子から=▽30代・尿検査を持ってこない。親がやってくれない▽50代…毎日10時頃になると低血糖のような症状を訴え、朝ごはんを与えられていないことがわかった▽50代…きょうだいが3人学校に来ているが、そのうちの1人だけ身なりが特別粗末で、不潔にしていたり体の発育も悪かったので変だと思った
 ◆子どもの不自然な態度から=▽50代…親に話をするのを嫌がり、親が悪いとはいわずに、自分が悪いからといっている▽40代…手当てをして欲しいと来室した。話をするうちに涙ぐみ始めたことで、何か心にわだかまりがあるのではと思った。しかし本人は自分でやったといいはる

傷や発育の悪さ、態度から

 ◆情緒的な不安定さから=▽30代…情緒が不安定でときどきヒステリックになる。おびえた目。相手の目をみて話ができない。すぐに「すみません」とぺこぺこした動作をする
 ◆精神的な症状から=▽30代…チックが出る。吃る。いつもおどおどしている。▽20代…家だけで現わるれぜん息。
 ◆親の様子から=▽20代…ケガをしたので病院へ連れていったところ、親が来てその子を殴った。「痛くないといえ」といったのを聞いた▽50代…親がこどもや家庭のあり方を認められず、自分の気の済むような嘘の言い訳をいうまで子どもを責めるため、子どもは常に嘘の言い訳をいう習慣になっている。親が学校に連絡を取るとき、責任を取りたくないため、子ども本人に電話をかけさせたりするが、子ども本人の気持ちは無視されていることがよくわかる
 こうしたケースでどのように対応したのか。まずは▽20代…本人に対し「学校が味方になるよ」と安心感を持てるよう声をかけ、接触をはかった▽30代…子どもに、虐待が起こりそうなときに外に飛び出すことや電話で助けを求めやすい手法を伝えた−−など直接対応するケースと、▽40代…担任、校長、教務等と連携を取り、親をあまり刺激しないよう話し合いをした。児童相談所の人にも間に入ってもらったりした▽50代…虐待防止マニュアルにそって、地区の民生委員、福祉課、児童相談所と連携をとって話し合いをした−−など外部と連携するケースがある。
 また問題解決にいたらなかったまずい対応の例として、▽50代…担任から保護者に注意してもらったところ、保護者はその事実を認めず、子どもが口止めされてしまった▽30代…担任に伝えたが、家庭内のことなのであまり立ち入れないということで、そのままになってしまった−−などの回答も寄せられた。
 こうした結果について調査では「虐待されている子どもの発見には、養護教諭の専門的で愛情に支えられた注意深い観察力が究めて大きな働きをする」と指摘し、「こうした問題への専門的な知識が、心の問題をも扱う養護教諭に対して強く求められるようになってきている」と今後の養護のあり方について示唆している。

(2001年3月10日号より)