BSE(狂牛病)に揺れる学校給食



 9月に牛海綿状脳症(BSE/いわゆる狂牛病)の牛が発生して早3か月。世界でも類を見ない厳しい検査体制が確立し国から安全宣言が出された。しかし先月相次いで2頭、3頭目が発見され、再び消費者の不安は高まっている。このような状況の中、学校給食現場ではどのような対応が取られ、また現場の学校栄養職員はどんな不安や疑問を抱えているのか。今回は東京都大田区立入新井第一小学校の学校栄養職員高橋千代子さんから現状についてお話し頂き、さらにBSEに関する疑問や不安点についてBSE研究の第一人者である東京大学の小野寺節教授に質問をしていただいた。


なにをもって安全なのか

 高橋 9月に狂牛病の牛が一頭発生してから、牛肉を使った献立は一切出していません。東京都では各区市町村によって対応は異なっているようですが、大田区では「当分の間使用しないように」という通知文が出されており、また保護者の不安は依然高いため使用には至っていない状況です。保護者には当分の間、給食では使用しないことを知らせてあるので落ち着いています。最初の一頭が発見された時これ以外は発生しないと言っていたと思いますが、2例、3例と出てくると心底安心できません。潜伏期間が2〜8年と長いですが、今後も発病する牛が出てくる可能性はあるのでしょうか。
 小野寺 今後さらに発生する可能性はあります。平成13年に、反芻動物由来の肉骨粉を反芻動物に与えることが禁止されました。潜伏期間を考えると平成20年位まで感染の危険性がある牛が出ることになります。これらに該当する牛は、子牛を何頭も産んだ牛です。肉用に肥育される牛は、24か月齢から36か月齢でと畜処理されます。これらから、BSE感染牛が出る可能性はほとんどありません。また、BSE検査で陰性のものが流通しますので、BSE感染牛の食肉が市場に出回ることはありません。
 高橋 日本国内全ての牛の検査が終了しても完全に不安は拭いきれないと思います。何をもって完全に安全になったといえるのでしょうか。
 小野寺 食肉として流通するものの安全性が確保されたという意味です。EUでは、BSE感染牛の月齢ごとの感染性を調べた結果、30か月齢未満の牛ではほとんど感染性が認められなかったため、検査対象は30か月齢以上となっています。
 日本では、全ての月齢の牛を対象にBSE検査を実施しています。そのため、たとえ30か月齢未満で感染牛が見つかったとしても、市場に流通させない対応が取れます。ただし、未だに国内での感染牛の感染原因が明確になっていないこと、BSE自体の発生原因や人への感染の危険性が明確に解明されていないことなどからくる不安は拭い去れないことも事実です。今後の調査・研究により、これらの課題を明確にすることが不安を完全に取り除く手立てです。

ゼラチン・ソースは大丈夫?

 高橋 牛エキスを使ったソースやゼラチン、ブイヨンの使用も控えています。それらの安全性はどうですか。
 小野寺 特定危険部位以外の原料を使用していれば大丈夫です。BSEの感染性は脳、脊髄、目、回腸遠位端部に認められています。これらの部位を使用してエキス類などを製造すると、異常プリオンが感染性を残したまま存在する危険性があるため、必ずこれらの部位を除いた原料で製造したものを使う必要があります。また、BSE発生のないオーストラリアなどの原料であれば同様の部位を使っても問題はありません。
 また、ゼラチンはその製造過程に異常プリオンを不活化させる酸処理、アルカリ処理が行なわれるためまったく問題ありません。

人間への感染は?

 高橋 テレビの映像で起立不能の牛の姿を見て保護者や子どもたちのショックも大きいようです。人間が感染した場合はどうなるのでしょうか。
 小野寺 BSEの異常プリオンが人に感染したと考えられているのが新変異型クロイツフェルトヤコブ病(vCJD)です。感染を証明する実験データ−はありませんが、vCJDに感染した人の異常プリオンと実験的にBSEに感染させたマウスなどの異常プリオンの特徴が似ていたことなどからBSEは人に感染するのではないかと考えられています。
 vCJDの症状は、漠然とした精神活動の低下から始まり、痴呆症状が徐々に加わり悪化します。身体の無動および無言の状態が徐々に進み、発病から2年以内で90%が死亡します。脳は全体的に萎縮し、神経細胞の多くが死滅するため脳組織はスポンジ状となります。
 高橋 牛はもともと草食動物ですが、なぜ肉骨粉を食べさせるようになったのでしょうか。
 小野寺 乳牛は乳量をたくさん出すことにより、カルシウム不足になります。そのカルシウム源として、肉骨粉や魚粉などが与えられていました。
 また、畜産はリサイクルの進んだ産業で、生体から取れる肉はもちろん、皮、骨、屑肉等も処理された資源として利用されてきました。BSE発生によりこれらのリサイクルのシステムが崩れたことから、コストの増加や新たな廃棄物の発生が懸念されます。

豚肉への影響

 高橋 豚肉は影響ないと言われますが、本当に大丈夫ですか。
 小野寺 豚は、異常プリオンを経口投与した試験では、BSEに感染しませんでした。脳内への直接接種した場合は感染が認められました。このため、通常の飼育条件で豚が感染する危険性はありません。BSEの感染は種の壁があり、あらゆる動物に感染が広がるものではありません。
 
 高橋 今回のお話を参考に、学校給食に従事する者として保護者に対してもより正しい情報を伝えていきたいと思います。ありがとうござました。





(2001年12月15日号より)