「米国における教育用マルチメディアの現状」
第6回米国教育事情視察
東京工業大学教授 清水康敬氏
「米国教育事情視察」は毎年、社団法人日本教育工学振興会が実施している。清水教授は視察団の団長を務め、視察の報告を今年2月に行った。この文章の著作権は、清水教授にある。
ウイルソンスクール
授業の4割でコンピュータを使用
まず、今回の調査で始めに訪問したウィルソンスクールですが、幼稚園から三年生までと、四年生から日本でいう中学二年生までの二つの学校が並んでいます。
主に幼稚園から三年生までの学校を見てきましたが、こちらでは一人一台を目指しています。千四百人の学生に対して千二百台のコンピュータが今あります。3つのグループに分かれ、コンピュータで学ぶ、先生が個別に教える、自分で学習するグループができていました。キーボードは引き出しになっていまして、使わないときはしまっておけます。全ての子どもが自由に違う勉強をしています。LANが組まれ、自分の部屋の子どもたちがどういう状態かというのは先生の端末で全て分かるようになっています。
かなり先生が意欲的なところだと感じました。
今年の春には一人一台になるということです。ここでは特殊な授業を行っているため一人一台は必要だと思います。また特殊な専用机を作っていること、また授業の40%がコンピュータを使っているのです。さらに一つのクラスに異学年の子どもたちが一緒に学んでいます。これは同学年の子どもが一緒に勉強するよりは、たてに二〜三年の差のある子どもが一緒にいた方が効果が高いと考えているようです。子どもたちの能力などでクラス分けをしています。
ここにはいろいろな人種の子どもたちがいるため、幅が広すぎることからコンピュータを使った教育がいいと考えられています。ハードもソフトも先生の管理するプログラムもジョステインラーニング社がやっています。資金は税金と企業が出しているということです。
一企業がハードもソフトも作って指導書のようなものもその会社が作っています。日本ではちょっと考えにくいことです。
タコマパーク中学校
「コンピュータサイエンス」
こちらはメリーランド州のタコマパーク中学校です。同じ州学校区内に第四回の調査で行ったモンゴメリ・ブレア高校のコンピュータサイエンスの子どもたちがインターネットを使っていました。当時はネットスケープの出始めの頃でして、日本ではまだ使われていませんでした。すばらしいキーボード操作で、高校に入ってすぐにこんな風になれるのだろうかと、疑問に思ったのです。そうしたら、実は中学校のマグネットスクールがあって、その分野で優秀な子を集めるのですが、その子どもたちが卒業したら六〇〜七〇%がこのブレア高校へ行くのです。
ここでは六年生から八年生の子が数学・理科のサイエンスを学んでいます。
元々この学校はどんどんレベルが下がってしまって、人が集まらないという時代がありまして、成績の良い子を集めるための施策としてマグネットを行うようにしました。その結果普通生徒もたくさん来て、ものすごく発展しています。
数学の授業を見ましたが、かなり難しいことをやっていました。まず授業が始まりますと、子どもたちがこの先生の授業を受けるために集まってきます。まず宿題を出します
。今日は何をするかという課題を出して、やりなさいと。この間十分ぐらいです。
そこでコンピュータに座ってプログラミングが始まります。質問があると「ミスターストリート」と子どもが呼んで、先生が答えるという形です。あるいは子どもにはレベルがありますので、隣の子が教えていたりします。
コンピュータサイエンスという科目では、六年では「コンピュータの発達」ということで、コンピュータの歴史や、ワープロやデータベース、キーボードの練習をします。
テレコミュニケーションという科目ではインターネットや電子メールを使ってディベート的な事も行います。
インターネットでは使い方のマナーを教え約束をさせて子どもにサインさせていました。インターネットには様々な問題がありますが、子どもに何を守らせるかが重要な事だと先生は言っていました。マグネットの子は優秀な子どもたちですが、自分が情報を集めカード化して保存するなどし、最後に子どもたちにそのプレゼンテーションをさせるのがマルチメディアです。 七年生の数学では関数を使ってプログラムを解析することをやっていました。
シカゴのハイトスクールですが、TCI(TeLe Comunication Inc.)プロジェクト校でして、ケーブルテレビ会社ですが、学校に補助をしています。生徒数は幼稚園から八年生まで千五百人のパブリックスクールです。
まず、三年生から五年生を対象にしたコンピュータラボがあり、六年生から八年生を対象にしたコンピュータラボがある。ラボには十六台または十七台のコンピュータが入っています。
TCIプロジェクトは、コンピュータを使って画面を見るようなテレビを寄付しています。かなり古いコンピュータもありました。
リーディングに関しては非常にコンピュータが有用であるということでした。
大学院生がアドバイザーに
シカゴ大学と教育委員会が連携
教員の問題として、コンピュータを使える人と全然使えない人もいるという話はありました。
次にシカゴ教育委員会ですが、ハイレベルの教育委員会を訪問したのは今回初めてです。ここでは日本の教育に非常に興味を持っていて、先頃調査団を送ったばかりだった。
情報教育関連のスタッフはサポート要員ですね。ハード、ソフトのサポートに力を入れている。
日本でもこういうことができるといいなと思ったのは、教育委員会が進めるITマネージャーということで、大学院生をアドバイス役に使う。シカゴ大学と教育委員会が提携して算数や数学の教育をインターネットを使って行う。学校が連携して協力を進めているようです。
ノーズウエスタン大学の資金で、十一の学校とネットワークしサイエンス教育をインターネットなどを使って行う。サマーキャンプでは、学校の施設を子どもたちに開放することを教育委員会指導で行っています。
アイオワ州はテクノロジー推進用のプロジェクトがあり、効果的な学習をしている学校には報告を求めていて、フォーマットが決まっています。それらをチェックして実際にどういった教育でどういう効果を表しているかを調べています。
三百校から応募があり、各学校からの報告をまとめています。
将来を考えて、ネットワークを州が行っているのです。
次に、コンピュータ教育関連機関としてソフトウェア・パブリッシャー協会を訪問しました。
アトランタで去年ソフトウエアパブリッシャー協会が出した報告書がありまして、ここではたくさんの情報がありました。テクノロジーは教育に良いということを推進しているのですが、この他に海賊版に対する保護やシンポジウムの開催を行っています。
また、子どもたちがインターネットを使って宝探しをする。いかに早くヒントを拾って問題解決をするか、を行っています。また、保護者向けの情報スーパーハイウエイの本を出しています。
もう一つ、スマート・バレー公社で、シリコンバレーの中にある職員が十二名しかいない団体です。いろいろなプロジェクトを行っていて、カリフォルニア州シリコンバレーの学校はすごく遅れているため、会社やボランティアが一斉に学校をインターネットでつなぐという試みもありました。イベント的なことや、教員研修なども行い、情報の提供もしています。
ジョステインラーニング社では、カリキュラムデザイナーという人がこの会社にはいまして、アメリカでは教育用ソフトウエアをシステム的に開発する専門の人がいます。
SPA、ソフトウエアパフリッシャー協会が出した調査では、80年代にコンピュータを使った教育が浸透したと報告しています。
教育環境ではコンピュータコーディネータが重要であり、カリキュラムとテクノロジーが上手く連携して使えるトレーニングを受けた先生がいることも効果が高いということです。
また、アメリカではコンピュータ一台あたり10名の児童が使用しているというデータがあります。また古いコンピュータでもその機能を活かして使っているというのが重要かと思います。マルチメディア対応のコンピュータは35人に一台となっています。マルチメディア対応のコンピュータは五人に一台がいいと考えています。これは、全体の学校で四%導入となっています。
コンピュータラボのパーセンテージが減って教室に置かれる割合増えている。今のアメリカの傾向として教室に入れようと言うことが増えています。
教科では英語が多く、ついで算数・社会となります。アメリカではリーディングが非常に重要なのです。英語をしゃべれない子どもが非常にたくさんいるのです。日本とは違うところだと思います。
コンピュータを使って指導できる教師のパーセントは日本と余り変わらない。先生の問題が大きいと感じていて、教員研修はとても重要だということです。
今回の調査ではアメリカではすごい勢いでインターネットが学校に接続されていると感じました。現在六五%の学校がインターネットに接続されています。ただ、インターネットというのは世界中の情報が取れるということで、必要な情報が分かっていないといけない。能力以上の情報が入ってきてしまう。子どものためにどう環境設定するかが重要であり、自由にやらせるだけでは何の学習にも成らないと思います。
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